\『ステップ・アップ・ツアー』全試合放送中!!詳細はこちら /
2025年7月30日から8月1日にかけて、千葉県の富士市原ゴルフクラブを舞台に、第16回「カストロールレディース」が開催された 。
JLPGAレギュラーツアーへの登竜門であるステップ・アップ・ツアーの中盤戦における重要な一戦として位置づけられるこの大会は、将来の女子ゴルフ界を担う選手たちの技量と精神力が試される場である 。
Contents
新世代が富士市原で示した存在感

今大会の物語を彩ったのは、2024年のプロテストを突破したばかりのルーキーたちが、経験豊富なベテラン勢に果敢に挑むという構図であった 。一方には、大会の顔であるカストロール契約のホステスプロたち。
ベテランの吉田弓美子や福山恵梨を含む8人の選手は、スポンサーへの恩返しという期待を背負い、特別なプレッシャーの中で戦いに臨んだ 。もう一方には、野心に満ちたルーキーたち。彼女たちの躍動が、トーナメント全体の様相を決定づけることとなる。
総勢120名の選手が3日間の熱戦を繰り広げ、賞金総額2,000万円、優勝賞金360万円の栄誉を目指した 。
初日の号砲、ホステスプロと新星たちの共演

大会初日は、予測不能な混戦模様で幕を開けた。4人の選手が4アンダーの「68」で首位に並び立ち、熾烈な優勝争いを予感させた 。
その筆頭に立ったのは、カストロール契約のホステスプロ、吉田弓美子と福山恵梨だった。吉田は、自身のプレーを「頭でイメージしていたショットと、実際打った球筋が合致していた」と振り返り、ベテランらしい安定感を見せつけた。
特に最終18番ホールでは、10メートルの長いバーディーパットを沈める圧巻のプレーを披露。これを本人は謙虚に「ただただ、まぐれです」と語ったが、その一打は彼女の経験と勝負強さを物語っていた 。
一方の福山は、「お世話になっているカストロールさんに結果で恩返ししたい」という強い決意を胸にプレー。その想いは、スポンサーカラーである緑色のウェアを身に纏うという象徴的な行動にも表れていた 。ショットからパッティングまで、すべてが噛み合った会心のゴルフで、見事に期待に応えた 。
この2人に並んだのが、明治安田ステップ・ランキングでトップを走る浜崎未来と、ルーキーの平塚新夢である。浜崎は、序盤の連続ボギーを乗り越える精神的な強さを見せ、ランキングリーダーとしての実力を証明した 。平塚は、難易度の高いコースを冷静に分析し、安定したプレーで上位に名を連ね、ルーキー世代の旗手として名乗りを上げた 。
初日のリーダーボードは、単なるスコアの羅列ではなかった。そこには、異なる立場の選手たちが抱える多様なプレッシャーが交錯していた。
ホステスプロが背負う「スポンサーへの期待」という外的な圧力、ランキングリーダーが感じる「地位を守る」という内的な重圧、そしてルーキーが直面する「自らを証明する」という挑戦。この4者4様のプレッシャーが一点に収束した首位タイという結果は、続く2日間のドラマを予感させるに十分な、緊張感に満ちた幕開けとなった。
嵐の前の静けさ、ルーキーの圧巻スパート

大会2日目、リーダーボードは大きな動きを見せる。依然として強い風が選手たちを悩ませる中、一人のルーキーが他を圧倒するプレーで抜け出した 。
主役となったのは、初日首位タイからスタートした平塚新夢。彼女はこの日、1イーグル、4バーディ、3ボギーの「69」をマークし、通算7アンダーで単独首位に躍り出た 。圧巻だったのは終盤のプレーだ。
パー5の17番ホール、残り220ヤードの第2打を3番ウッドでピン側2メートルにつけるスーパーショットでイーグルを奪取。続く18番ホールでも8メートルのバーディーパットをねじ込み、上がり2ホールで3ストローク伸ばすという離れ業を演じた 。
この劇的なフィニッシュにも、平塚は冷静だった。「気持ちの上下なく回れたのがよかったのかな」と自身の精神状態を分析し、「ルーキー3人での最終日最終組、みんなで楽しんでやれたらいいかなと思います」と、同期との最終決戦に胸を躍らせた 。
その平塚を1打差の通算6アンダーで追うのは、ホステスプロの福山恵梨、ランキングリーダーの浜崎未来、そして同じくルーキーの水木春花と西澤歩未という実力者4人 。最終日は、首位の平塚を中心に5人がひしめく大混戦が予想された。
なお、2日目を終えての予選カットラインは通算1オーバーに設定された 。初日首位の吉田弓美子はスコアを落としたものの、このカットライン上で粘りを見せ、40位タイで最終日へと駒を進めた。ベテランの意地が垣間見える予選通過であった 。
順位(初日) | 選手名 | スコア(初日) | 順位(2日目) | 選手名 | スコア(2日目) |
1位タイ | 吉田 弓美子 | -4 | 1位 | 平塚 新夢 | -7 |
1位タイ | 福山 恵梨 | -4 | 2位タイ | 福山 恵梨 | -6 |
1位タイ | 浜崎 未来 | -4 | 2位タイ | 浜崎 未来 | -6 |
1位タイ | 平塚 新夢 | -4 | 2位タイ | 水木 春花 | -6 |
5位タイ | (複数選手) | -3 | 2位タイ | 西澤 歩未 | -6 |
雨中の最終決戦、逆転劇とルーキーの涙

酷な天候下でのサバイバルゲーム
最終日は、朝から降り続く雨と強風という最悪のコンディションに見舞われた 。この悪天候は、単なるスコアメイクの戦いを、精神力と忍耐力、そして状況適応能力が問われるサバイバルゲームへと変貌させた。
雨は飛距離を奪い、濡れたグリップはショットの精度を狂わせる。ぬかるんだ足場は安定したスイングを困難にし、選手たちは守りのゴルフを強いられた 。
このような状況下で栄冠を掴むには、技術だけでなく、いかに冷静に自然の猛威をマネジメントできるかが鍵となった。この日の勝敗は、天候を味方につけた者に微笑む運命にあった。
大久保柚季、驚異の猛チャージ
この過酷な状況で、ひときわ輝きを放ったのが21歳のルーキー、大久保柚季だった。首位と2打差の6位からスタートした彼女は、最終組の喧騒から離れた場所で、静かに、しかし着実にスコアを伸ばしていった 。
6バーディ、1ボギーの「67」。この日、最も厳しいコンディションの中で叩き出したベストスコアは、彼女の技術の高さを証明するものだった 。通算10アンダーでホールアウトし、後続組を待つクラブハウスリーダーとなった。
彼女のプレーには、クレバーな戦略が光っていた。特に最終18番ホールでは、過去の失敗から学んだ教訓が生かされた。2戦前の大会で勝負どころのバーディパットを外し敗れた悔しさを胸に、彼女はあえてアプローチをピンの下につけ、リスクの少ない上りのパットを残すことを選択した 。この冷静な判断が、後の劇的な結末への伏線となる。
最終組の死闘と運命の最終ホール
一方、優勝争いの渦中にいた最終組では、首位の平塚新夢と挑戦者の水木春花による一進一退の攻防が繰り広げられていた。勝負の行方は、最終18番ホールまでもつれ込む。
その時点で、水木春花はクラブハウスリーダーの大久保と並ぶ通算10アンダー。パーをセーブすればプレーオフという、息詰まる状況だった。しかし、勝利の女神は非情だった。水木の放ったパーパットは無情にもカップを逸れ、ボギー。
この一打で、大久保柚季のプロ初優勝が劇的に決まった 。単独首位から出た平塚もスコアを「73」と落とし、3位タイに終わった 。
この結末は、単なるパットのミスが勝敗を分けただけではなかった。それは、プレッシャー下における二人のルーキーの対照的なゴルフ哲学の衝突でもあった。大久保は、計算された戦略と忍耐強い実行力で勝利を手繰り寄せた。一方、敗れた水木は試合後、深い学びを得ていた。
「攻めた結果で負けたほうが悔しくないし、後悔が残らないことが分かった」。この言葉は、彼女が最終ホールで守りに入ってしまったことへの後悔の念を示唆している。大久保が戦略で勝利を掴んだ裏で、水木は敗北の中から「攻め続ける」という自らのゴルフ哲学を再確認した。
一人のルーキーが栄光を手にし、もう一人のルーキーが敗北から確固たる信念を得る。それは、女子ゴルフ界の未来を担う世代の成長を象徴する、感動的なフィナーレだった。
新チャンピオンの肖像、大久保柚季の軌跡と未来
劇的な逆転優勝を飾った大久保柚季とは、どのような選手なのか。彼女の歩んできた道のりは、栄光と苦難に満ちている。
6歳でゴルフを始め、ジュニア時代からその才能は際立っていた。世界ジュニアゴルフ選手権で日本代表として戦い、準優勝に輝くなど、数々のタイトルを獲得。関西ジュニアゴルフ選手権を何度も制し、中学生で日本女子オープンに出場するなど、アマチュアとして輝かしい実績を積み上げてきた 。
しかし、プロへの道は平坦ではなかった。JLPGAプロテストでは3度の失敗を経験。アマチュア時代の華々しい経歴とは裏腹に、長く苦しい時間を過ごした。そして2024年、4度目の挑戦でついに悲願の合格を果たす 。この不屈の精神こそが、彼女のゴルフの根幹を成している。
彼女のプレースタイルは、高いフェアウェイキープ率と正確無比なアイアンショットを武器に、積極的にピンを狙う攻撃的なものだ 。最終日の悪天候下で安定したプレーができたのは、このショットメーカーとしての素地があったからに他ならない。
優勝が決まった後のインタビューで、彼女は涙を流した。「長い道のりだったんです」。その涙は、プロテストでの苦悩、そしてそれを乗り越えて掴んだ栄光までの道のりを物語っていた。
この優勝は、彼女に360万円の賞金と、何より大きな自信をもたらした。大会前の明治安田ステップ・ランキングは22位だったが、この勝利で一気に5位へジャンプアップ 。来シーズンのレギュラーツアー本格参戦という目標へ、大きく前進した。
結論、新世代が切り拓く未来
2025年のカストロールレディースは、女子ゴルフ界に新時代の到来を告げるトーナメントとして記憶されるだろう。大久保柚季の初優勝は、その象徴的な出来事であった。しかし、2位の水木春花、3位タイの平塚新夢、福田萌維、西澤歩未と、最終成績の上位をルーキーたちが独占した事実は、この世代の層の厚さとポテンシャルの高さを雄弁に物語っている 。
もちろん、ベテラン勢の健闘も光った。ホステスプロとしての重圧をはねのけ、2週連続の優勝争いの末に3位タイに入った福山恵梨のプレーは見事であった 。また、ランキングリーダーとして常に上位をキープし、同じく3位タイで大会を終えた浜崎未来の安定感も特筆に値する 。
この大会が示したのは、JLPGAステップ・アップ・ツアーが、才能ある若手選手たちにとって、技術と精神を磨き上げるための理想的な舞台として機能しているという事実である。
2024年プロテスト合格組は、もはや単なる参加者ではない。彼女たちは勝利を重ね、シーズンの物語を自らの手で創り上げる主役となっている。大久保柚季の戴冠を皮切りに、彼女たちの挑戦はこれからも続いていくだろう。日本の女子ゴルフ界の未来は、この頼もしい新世代の双肩にかかっている。
順位 | 選手名 | 合計スコア | 通算 | 獲得賞金 (円) |
1 | 大久保 柚季 | 206 | -10 | 3,600,000 |
2 | 水木 春花 | 207 | -9 | 1,760,000 |
3位タイ | プリンセス・スペラル | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 福田 萌維 | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 高橋 恵 | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 福山 恵梨 | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 浜崎 未来 | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 西澤 歩未 | 210 | -6 | 885,714 |
3位タイ | 平塚 新夢 | 210 | -6 | 885,714 |
10位タイ | 成澤 祐美 | 211 | -5 | 362,666 |
10位タイ | 高木 萌衣 | 211 | -5 | 362,666 |
10位タイ | 但馬 友 | 211 | -5 | 362,666 |
\『ステップ・アップ・ツアー』全試合放送中!!詳細はこちら /