JLPGAプロテスト

2025年JLPGA最終プロテスト、運命の二日目全記録

岡山県・JFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部(6,464ヤード、パー72)を舞台に繰り広げられる、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)2025年最終プロテスト。4日間72ホールのストロークプレーで、スコア上位20位タイの選手のみが合格証を手にする、あまりにも過酷なサバイバルだ。

地獄の淵から響いた「100点」の声

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その運命の二日目が終了した。リーダーボードのトップを追うのが通常の報道セオリーだが、11月5日、JFE瀬戸内海の主役は「絶望」の淵から這い上がった一人の選手だった。

昨年の「日本女子アマ」覇者、鳥居さくら。アマチュア最強のタイトルホルダーとして臨んだはずのテスト初日、彼女は86位タイという「失敗」の烙印を押されたも同然の順位に沈んでいた。だが、二日目。彼女はゴルフ史に残るような猛チャージを見せる。

「衝撃イーグル締め」。記事の見出しがそう伝えたように、鳥居は圧巻のプレーで「86位」から一気に「11位」まで、実に75人抜きの大ジャンプを遂げた。合格圏内(20位タイ)どころか、トップ10をうかがう位置まで浮上したのだ。

この日のプレーを終えた彼女の言葉が、プロテストという舞台の異様さと、そこを突破するのに必要な精神状態を物語っていた。

「きょうのゴルフは自分に100点あげたい」。

これは、単なる好スコアへの自賛ではない。86位という順位がもたらす心理的絶望、すなわち「自分はもうダメだ」という内なる声に打ち勝ったことへの「100点」だ。このスコアは、技術ではなく、彼女のレジリエンス(回復力)に対して与えられたものだ。

さらに彼女はこう続けた。「挑戦を楽しみたい」。初日の恐怖から解放され、純粋な「挑戦」の領域に入った鳥居。彼女の復活劇は、このプロテストが単なる技術試験ではなく、いかにして自分自身を絶望から救い出し、プレッシャーの中で「楽しむ」という究極のメンタリティに到達するかを問う「るつぼ」であることを、全参加者とファンに鮮烈に示した。

20位タイ(トップ20タイ)の攻防

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鳥居の奇跡的な「100点」が光だとすれば、プロテストの戦いの本質は「影」にある。それは、リーダー争いではなく、「合格ライン」という名の断崖絶壁で繰り広げられる、20位タイを巡る攻防だ。

二日目を終えたリーダーボードを分析すると、その過酷な現実が浮かび上がる。11位タイの鳥居さくらがトータル2アンダー。一方で、25位タイの集団がトータルイーブンパー(E)にひしめいている。合格は「20位タイ」まで。つまり、現時点での暫定的な合格ラインは1アンダーと推定され、イーブンパーの25位タイ集団は、全員が「落選圏」にいることを意味する。

ライン上の「重圧」とT25(E)に集う名前たち

その運命の境界線、イーブンパーの25位タイに、奇しくも「名前」のある注目選手たちが集結している。

  • 神谷ひな:トッププロ・神谷そらを姉に持つ。そのキャリアは常に「妹」という枕詞と共に比較され、計り知れない重圧を背負う。
  • 寺西飛香留:国内男子ツアー史上初の女子プレーヤーとして、その名を轟かせた「開拓者」。
  • 中澤瑠来:今年の「日本女子アマ」覇者であり、本来なら鳥居さくら(昨年の覇者)と同様にアマチュアの頂点にいるはずの選手。

これだけの注目選手が、揃いも揃って合格ラインの「一打外側」にいる。これは偶然ではない。アマチュア時代の輝かしい経歴や、周囲からの高い期待は、この最終テストにおいて「アドバンテージ」ではなく、最も重い「ハンディキャップ」として機能する。彼女たちはコースだけでなく、自分自身の「評判」という名の見えざる敵とも戦わなければならない。

崖っぷちの「覚悟」とT36(+1)のベテラン

T25の集団が「重圧」と戦っているとすれば、そのさらに一歩後ろ、トータル1オーバーの36位タイには、「覚悟」を背負う選手がいる。

境原茉紀、30歳。彼女にとって、今年は12度目のプロテスト挑戦だ。彼女は「今年が最後という気持ち」で、このJFE瀬戸内海に立っている。

鳥居さくらのような若き才能の「奇跡」とは対極にある、12年間の挑戦の終着点。T25の集団からさえ2打ビハインドの「+1」。

彼女にとっての「挑戦」は、鳥居の言う「楽しむ」ものではなく、文字通りキャリアのすべてを賭けた最後の執念だ。このヒューマンドラマこそが、プロテストのもう一つの顔である。

試練のアマチュア王者たちとT43(+2)の苦戦

さらに目を転じれば、プロテストの「レベラー(平等化装置)」としての側面が露呈する。トータル2オーバーの43位タイには、「日本ジュニア」を制した吉﨑眞夏(マーナ)、「日本女子学生」優勝の佐々木史奈といった、各カテゴリーの王者たちが苦しんでいる。

アマチュア時代のトロフィーは、ここでは何の意味も持たない。彼女たちは今や、初日に鳥居さくらがいた「絶望」の領域に立たされており、三日目に奇跡的なカムバックを果たさなければ、合格ラインに触れることさえできない。


【表1】運命の境界線:合格ライン(Top 20)周辺の攻防(二日目終了時)

順位 スコア (Total) 選手名 主な経歴・状況
11位 T -2 鳥居 さくら 昨年の日本女子アマ覇者。86位からジャンプアップ [2, 3]
(推定合格ライン) (-1) (20位タイの境界)
25位 T E (0) 神谷 ひな 神谷そらの妹
25位 T E (0) 寺西 飛香留 男子ツアー出場歴
25位 T E (0) 中澤 瑠来 今年の日本女子アマ覇者
36位 T +1 境原 茉紀 30歳、12度目の挑戦 [3, 5]
43位 T +2 吉﨑 眞夏 日本ジュニア覇者
43位 T +2 佐々木 史奈 日本女子学生覇者

 

首位ジ・ユアイの「必死」な戦い

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合格ラインの攻防が「影」の主役だとすれば、「光」の当たる場所、リーダーボードの頂点に目を向けよう。だが、そこにあったのは、王者の余裕ではなく、意外なほどの「焦燥」だった。

二日目を終えて単独首位に立ったのは、20歳のジ・ユアイ(中国)。スコアはトータル7アンダー。2位に2打差をつける堂々のポジションだ 。しかし、彼女のプレー内容は、そのスコアが示すほど安定したものではなかった。

この日のスコアは「71」。その内訳は、5バーディ・4ボギー。バーディを奪えば、ボギーで吐き出す。まさに「荒馬」のようなゴルフだ。この不安定な内容を裏付けるように、ジ・ユアイの口からは、首位選手らしからぬ緊迫した言葉が漏れた。

「きょうは、アイアンとパッティングがあまり良くなかったです」。

そして、核心を突く言葉が続く。

「ボギーが先行していたので、後半は取り返そうと必死でプレーしていました」。

単独首位の選手が「必死(hisshi)」という言葉を使った。この一言こそ、最終プロテストの魔性だ。ジ・ユアイは、単に「Top 20」の通過を目指しているのではない。

彼女の目には、「第1位合格者」にのみ与えられる、2025年クォリファイングトーナメント(QT)ファイナルステージの出場資格という「特賞」が映っている。

「合格」を目指す戦いと、「優勝」を目指す戦い。二つの異なるプレッシャーが、彼女のプレーを5バーディ・4ボギーという不安定なものにし、精神状態を「必死」にさせている。彼女の2打差のリードは、その不安定さを鑑みれば、極めて脆いものと言わざるを得ない。


【表2】JLPGA最終プロテスト 二日目(36H)終了時 リーダーボード

順位 スコア (Total) 選手名 国籍
1 -7 ジ・ユアイ CHI
2 T -5 藤本 愛菜 JPN
2 T -5 伊藤 愛華 JPN
4 T -4 横山 翔亜 JPN
4 T -4 松原 柊亜 JPN
6 T -3 横山 珠々奈 JPN
6 T -3 田村 萌来美 JPN
6 T -3 稲葉 千乃 JPN
6 T -3 所 彩仁香 JPN
6 T -3 ワン・リーニン TWN

 

 忍び寄る「自分」という敵と2位タイ、日本勢の告白

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首位ジ・ユアイ が「必死」の焦りを見せる中、トータル5アンダーの2位タイで追走するのは、二人の対照的な日本勢だ。伊藤愛華と藤本愛菜。彼女たちの告白は、このテストで戦うべき真の敵が「他人」ではなく「自分自身」であることを明らかにしている。

伊藤愛華:18歳の「非凡さ」

一人は、伊藤愛華。埼玉栄高校の3年生、18歳。これが彼女にとって初めてのプロテストだ。初日から首位タイ発進と、「堂々」たるプレーを見せている。

彼女の強さは、12度目の挑戦となる境原茉紀のような過去の失敗の記憶を持たない、「若さゆえの恐れ知らず」にある。

「活躍している先輩はみんな憧れ」と語る彼女にとって、プレッシャーは「重圧」ではなく、憧れに近づくための「燃料」となっている。だが、その純粋な状態が、プロテストの重圧の中でいつまで続くかは、誰にもわからない。

藤本愛菜:緊張との「格闘」

もう一人の2位タイ、藤本愛菜の言葉は、伊藤の「非凡さ」とは対照的に、プロテストのリアルな心理的格闘を克明に描写している。

「前半はショットも良かったので、いい流れで4つスコアを伸ばせたのですが、途中からやっぱり緊張感というか、自分自身を元に戻せなかったなという感じでした」。

彼女は、プレッシャーがパフォーマンスを侵食する「瞬間」を、明確に言語化している。さらに続けた。

「終盤になるにつれてどんどん緊張していって、思い通りのプレーができなかったです」。

これこそ、ジ・ユアイが「必死」と表現した感情の正体であり、T25の注目選手たちが陥っている「重圧」の正体だ。そして藤本は、自ら進むべき道をこう結論づけた。

「残り2日間、自分自身との戦いになると思うので、しっかりやりきれればいいなと思います」。

彼女は首位のジ・ユアイを追ってはいない。彼女が戦っているのは、内側から湧き上がる「緊張」という名の敵だ。

JFE瀬戸内海が選別する者。運命のムービングデーへ

二日間の戦いを終え、JFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部は、選手たちを無慈悲に選別した。三日目の「ムービングデー」に向け、運命の構図は固まった。

ドラマは四つの戦線で同時に進行する。

  1. 頂の攻防:「必死」 の首位ジ・ユアイ(-7) は、自らの荒馬のようなゴルフを制御し、優勝の「特賞」を掴めるか。
  2. 追走者の内戦:2位タイ(-5)の伊藤愛華と藤本愛菜 は、「自分自身との戦い」 に打ち勝ち、首位を捉えられるか。
  3. 奇跡の継続:11位(-2)の鳥居さくら は、86位から這い上がった「100点」 の自由なメンタルを、合格圏内という「守り」のプレッシャーの中で維持できるか。
  4. 断崖の決戦:そして、最大の激戦区。T25(E)の神谷ひな、寺西飛香留、中澤瑠来 ら「名前」を持つ者たちは、合格ラインの内側へ這い上がれるか。そして、T36(+1)の境原茉紀 は、12年越しの「最後の挑戦」 で、奇跡を起こせるか。

通常、この息詰まる戦いは静寂の中で行われる。しかし、運命の第3日と最終日は、JLPGA公式YouTubeチャンネルでライブ配信されることが決定している。

瀬戸内の「るつぼ」が、今、世界に開かれる。彼女たちの「必死」な戦いも、「100点」の歓喜も、「自分自身との戦い」に苦しむ姿も、すべてが白日の下に晒される。本当のドラマは、ここから始まる。