2025年ステップ・アップ・ツアー

大久保柚季が鉄の意志で劇的プレーオフを制す――2025年山陰ご縁むす美レディース、2週連続優勝の快挙

2025年8月28日から30日にかけて鳥取県で開催されたJLPGAステップ・アップ・ツアー第13戦「山陰ご縁むす美レディース」は、息をのむようなプレーオフの末、21歳のルーキー大久保柚季が2週連続優勝を飾るという劇的な幕切れを迎えた 。

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ルーキーの戴冠:試練の鳥取で大久保が見せた精神力

Photo:Yoshimasa Nakano/Getty Images

「ご縁・感動・元気~山陰から世界へ」という大会テーマは、まさに大久保の感動的なパフォーマンスを象徴していた 。108人の出場選手が競い合う中、彼女が見せた精神的な強さと技術の高さは、ステップ・アップ・ツアーが未来のスターを育むための重要な登竜門であることを改めて証明した 。

大久保の勝利は、単なる1勝以上の意味を持つ。それは、プレッシャー下でこそ真価を発揮する「完成された選手」の出現を告げるものであった。

優勝直後に「今はビックリしている」と語った彼女の謙虚な言葉とは裏腹に、コース上で見せたプレーは、極限の緊張状態においても冷徹なまでに効率的であった 。この内面と外面のコントラストこそが、彼女の非凡さの証左と言えるだろう。

戦いの舞台、大山平原:富澤誠造が仕掛けた戦略的傑作

今大会のドラマを演出したもう一人の主役は、その舞台となった大山平原ゴルフクラブである 。名匠・富澤誠造の設計によるこのコースは、風光明媚な大山の麓に広がり、美しい景観とは裏腹に選手たちに厳しい試練を課した 。

コースの全長はトーナメント仕様で6,542ヤードと長く、その最大の防御は、各ホールをセパレートする鬱蒼とした松林と、巧みに配置された77個のバンカーである 。

このコース設計は、単に技術的に優れた選手ではなく、精神的に最も強靭な選手を選び出す「心理的なフィルター」として機能した。最終日に首位からスタートした大西葵が「第1打もけっこう曲がっていた」と語ったように、積極策が裏目に出た選手が順位を落とす一方で、冷静にコースをマネジメントした選手が浮上した 。

大山平原ゴルフクラブは、攻撃的なプレーへの誘惑と、ミスに対する厳しい罰則という二律背反を選手に突きつけ、肉体的な戦いと同等、あるいはそれ以上に過酷な精神的な戦いを強いたのである。

野心と消耗の3日間:その栄枯盛衰

大会序盤は、大西葵が主役の座を独占した。初日を首位タイで終えると、2日目にはスコアを伸ばし、通算9アンダーで単独首位に躍り出た 。

その圧倒的なパフォーマンスは、最終日が彼女のツアー初優勝を祝うためのセレモニーになるであろうことを予感させた。2位には1打差でルーキーの古家翔香がつけ、虎視眈々と逆転の機会をうかがっていた 。

最終日の崩壊とルーキーの猛追

しかし、最終日はゴルフの筋書きのないドラマを体現する一日となった。首位を走る大西にかかるプレッシャーは、彼女のプレーを少しずつ蝕んでいった。

本人が「ボギーは3回とも2メートルくらいのパーパット」と悔やんだように、勝負どころのパットを決めきれず、優勝への強い気持ちが「自分で空回りさせちゃいました」という結果を招いた 。

その一方で、後続の選手たちは着実にスコアを伸ばした。特に安定したプレーを見せた高木萌衣は、静かにリーダーボードを駆け上がり、大西にプレッシャーをかけ続けた 。

そして、この日の主役となったのが、首位と4打差からスタートした大久保柚季であった 。追いかける者の強みである「失うものはない」という精神状態で、彼女は恐れることなくプレーに集中した。最終的に通算8アンダーでホールアウトし、高木とのプレーオフへと勝負を持ち込んだのである 。

この最終ラウンドは、ゴルフにおける「二つのトーナメント」の存在を明確に示した。最初の36ホールでリードを築く戦いと、最後の18ホールでそのリードを守り抜くという、全く異なる心理戦である。大西は後者のプレッシャーに屈し、大久保は追いかける者の自由を最大限に活かして勝利を手繰り寄せた。

この日は、才能だけでは勝てないゴルフの奥深さ、最終ラウンド特有の重圧を管理する能力こそが真のチャンピオンの条件であることを、改めて浮き彫りにした。

運命のプレーオフ、栄光への2ホール

Photo:Yoshimasa Nakano/Getty Images

通算8アンダーの208ストロークで並んだ大久保柚季と高木萌衣によるプレーオフは、大会のクライマックスにふさわしい緊迫感に包まれた 。

勝負の舞台となった1ホール目。高木は「初めてのプレーオフだったので緊張しました」と振り返る 。正規の18番でバーディーを奪った時と同じ距離からのセカンドショットに力みが入り、グリーン奥に外してしまう。このわずかなミスが、勝負の流れを大きく左右した。

続く2ホール目、大久保は冷静にパーをセーブ 。対する高木はパーパットを決めきれず、勝負は決した。最高のプレッシャーがかかる場面で、ミスなくプレーを完遂した大久保の精神力が、土壇場で勝利を呼び込んだ。

優勝が決まった瞬間、彼女が見せた安堵と驚きの表情は、その裏にあった計り知れない重圧と、それを乗り越えた達成感の大きさを物語っていた 。

フェアウェイの声と歓喜、悔恨、そして決意

トーナメントの結果をより深く理解するためには、リーダーボードの数字だけでは不十分である。選手たちが語った言葉は、それぞれの戦いに血と肉を与え、人間ドラマとしての奥行きを明らかにする。

  • 優勝:大久保 柚季(-8)

    優勝後、「連続優勝…。今はビックリしている、という気持ちが一番です」と語った 。この言葉は、彼女自身の予想をも超える急成長ぶりと、その謙虚な人柄を示している。

  • 2位:高木 萌衣(-8)

    敗れはしたものの、その言葉はすでに次を見据えていた。「正規のプレーで短いパットを外しているところが優勝できない原因かなと思う。ショットは良いので、この調子を維持しながら、次戦でも優勝争いに絡めるように頑張ります」 。敗戦の悔しさを冷静に分析し、次への糧とする建設的な姿勢は、トッププロの証である。

  • 3位タイ:大西 葵(-6)

    目前だった初優勝を逃した悔しさは、言葉の端々に滲み出ていた。「いいところが本当になかったですね」「とにかく悔しいので、リセットしてまた一から頑張ります」 。その率直な自己評価と絶望感は、勝利を逃すことの痛みを生々しく伝えている。

  • 3位タイ:東 浩子(-6)

    ベテランの視点から、冷静に敗因を分析した。「自分の持ち味はショット力だけど、最後のバックナインに入ってから、なかなかピンに絡めることができなかったことが敗因かな」。次戦が地元開催であることから、「地元の皆さんに喜んでもらえるようなプレーをしたいです」と、プロとしての強い責任感を覗かせた 。

これらの言葉は、プロゴルフが最終パットの後に終わるのではなく、パフォーマンス、分析、そして次戦への準備という絶え間ないサイクルであることを示している。それは、異なる個性を持つアスリートたちが、それぞれの方法で成功と失敗に向き合う、終わりのない心理的な旅路なのである。

最終結果と大会の歴史

3日間にわたる熱戦の結果は、以下の通りである。

順位 選手名 通算スコア 合計 獲得賞金(円)
1 大久保 柚季 -8 208 3,600,000
2 高木 萌衣 -8 208 1,760,000
T3 大西 葵 -6 210 1,100,000
T3 東 浩子 -6 210 1,100,000
T3 宮澤 美咲 -6 210 1,100,000
6 前田 羚菜 -5 211 900,000
T21 桑山 紗月(前年覇者) -1 215
T21 吉田 弓美子 -1 215
T30 成田 美寿々 E 216

注:2位以下の賞金額は標準的な配分に基づく推定値

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