2025年ステップ・アップ・ツアー

2025年ECCレディスゴルフトーナメント、世代を超えた激闘の舞台裏

秋風が心地よく吹き抜ける兵庫県の北六甲カントリー倶楽部、東コース 。2025年10月17日、JLPGAステップ・アップ・ツアー「ECCレディスゴルフトーナメント」の最終日、そのクライマックスは18番グリーンで訪れた 。

33歳のベテラン、仲宗根澄香が、優勝を決定づける1.2メートルのバーディーパットを前に静かに佇んでいた 。6年という長い間、待ち望んだ勝利の瞬間。その背後には、猛追する若手プロたちの野心と、10代のアマチュア選手が見せる恐るべき才能が迫っていた。

3日間にわたるこのトーナメントは、単なる一つの試合ではなかった。それは、現代女子ゴルフ界の縮図そのものであった。経験豊富なベテランの不屈の精神が、次世代を担うスター候補たちの勢いと、10代の天才少女たちの恐れを知らないプレーと激しくぶつかり合う「大混戦」 。

仲宗根澄香の不屈の物語と6年ぶりの勝利

最終的に、仲宗根澄香は通算12アンダー、トータル204ストロークで優勝トロフィーを掲げた 。2019年以来、実に6年ぶりとなるステップ・アップ・ツアー通算5勝目 。彼女はこの勝利で、優勝賞金360万円を獲得した 。

しかし、この勝利は決して平坦な道のりではなかった。プロ15年目、33歳という年齢は、彼女に重くのしかかっていた 。

試合後のインタビューで、仲宗根は率直に胸の内を明かした。「ハードな練習を行うと、試合に体力面の影響を及ぼす年齢的なものを意識するように…」。

それ以上に深刻だったのは、精神的な葛藤だった。「若い頃のようにフレッシュな熱い気持ちをもてない。そんなところで自分に対して残念だなぁと思うようにもなった」 。勝利から遠ざかる中で、彼女は静かに自分自身への失望と戦っていたのだ。

新たな武器と新たな誓い

この長いトンネルを抜けるきっかけとなったのは、二つの大きな変化だった。

一つは、技術的な決断である。パッティングの不調に悩んだ彼女は、今年6月から長尺パターへの切り替えを決意した 。

これは単なる苦肉の策ではなかった。「ダメだから使うのではない。(長尺は)新しいチャレンジです」と彼女は語る。

同じく長尺パターでメジャーを制した堀琴音の活躍が、大きな刺激となっていた 。これは、自身の弱点を克服するための、前向きで戦略的なアプローチだった。

もう一つは、精神的な覚醒である。優勝争いに絡みながらも敗れた前週の試合後、彼女は心に誓いを立てた。

「今後、ゴルフを良くするために、勇気をもってプレーすることを誓った。敵は内にいます。自分に負けたくありません」 。この誓いが、彼女のプレーを根底から変えた。その象徴が、最終日の最終ホールで見せたプレーだった。

最後の攻防

1打差の緊迫した状況で迎えた18番ホール。ピンまで残り128ヤードのセカンドショットで、彼女は9番アイアンを握った。「絶対に逃げない」という強い意志でピンを真っ直ぐに狙ったショットは、ピンそば1.2メートルに突き刺さるスーパーショットとなった 。

「右上からのやや下りのフックライン。決して、やさしいパッティングではない」 。冷静にラインを読み切り、彼女はこのウィニングパットを沈めた。それは、6年間の苦悩と、それを乗り越えるために自ら起こした変化、そして「自分に負けない」という勇気が結実した瞬間だった。

この勝利は、単なるカムバックではない。ベテランアスリートがキャリアを継続させるために、いかにして技術的、精神的に自身を再発明できるかを示した、力強い証明となった。

試合後、彼女は「私にとって、次週は今年最後のJLPGAツアー。思い切っていきます」と、すでに次なる戦いを見据えていた 。

熾烈な追撃とブレークスルー目前の若きプロたち

大須賀望<Photo:Yuichi Masuda/Getty Images>

プレーオフまであと一歩に迫ったのが、23歳の大須賀望だ。最終日、イーグルを奪うなど圧巻の「67」をマークし、通算11アンダーでフィニッシュ 。優勝には1打及ばなかったが、準優勝で賞金176万円を獲得した 。

宮城県出身の彼女は、身長146cmと小柄ながら、ドライバーの平均飛距離は230ヤードを誇るパワーヒッター 。

「小さな巨人」を目指す彼女は、その明るい性格と努力を惜しまない姿勢で知られている 。試合後、彼女は「今週はロングパットの距離感が合わなかった」と課題を口にしつつも、「久しぶりの優勝争いができたのでよかった」と前を向いた 。

そして、「この悔しさをバネにして、残りの試合で優勝できたらいいなと思います」と力強く語った 。この敗戦は、彼女にとって単なる負けではなく、未来の勝利への貴重な糧となるだろう。

ルーキーの躍進と神谷桃歌

単独3位に入ったのは、19歳のルーキー、神谷桃歌だ。現役の中京大学の学生でもある彼女は、通算9アンダーでフィニッシュし、賞金140万円を手にした 。大会2日目には首位タイに立つなど、プレッシャーのかかる場面でも堂々としたプレーを披露した 。

2024年の日本女子学生ゴルフ選手権を制した実績を持つ彼女は、プロと学業を両立する「二刀流」アスリートとして注目されている 15。驚くべきは、その冷静な自己分析だ。

同期が次々と活躍する中でも、「自分はちょっとずつしか進歩しないんです。急に飛躍したりとかはないので、自分のペースでちゃんとやって優勝できたらいいなと思います」と語る 。

彼女のゴルフ人生の自己評価は「牛歩」。この地に足のついた思考は、プロの世界で長く戦い抜くための強固な精神的基盤となるに違いない。今大会での3位という結果は、彼女の着実なアプローチが正しいことを証明した。

大須賀と神谷の活躍は、ステップ・アップ・ツアーが若手選手にとってどれほど重要な舞台であるかを浮き彫りにした。

ここは、技術を磨き、勝利への渇望を燃やす場所であり、同時に、自らの哲学を試し、プロとしてのアイデンティティを確立するための、極めて重要な試練の場なのである。

フィールドを席巻した10代のアマチュア

14歳の天才少女:岩永梨花

今大会で最も大きな衝撃を与えたのは、14歳の中学生、岩永梨花だった 。初日4位、2日目6位と、3日間を通じて常に優勝争いに加わり、最終的にトップアマとなる通算6アンダーの8位タイでフィニッシュした 。

そのプレーぶりは、年齢を感じさせない落ち着きに満ちていた。「緊張はしない」と断言し、ジュニア時代の成功体験からメディア対応にも慣れていると語る姿は、まさに大物の風格だった 。

2025年の日本ジュニアを制し、姉もまたチャンピオンというゴルフ一家に育った彼女の才能は、疑いようがない 。

しかし、そんな彼女でさえ、プロの世界の厳しさを痛感する場面があった。最終日、優勝を争うプロたちが見せた連続イーグルを目の当たりにし、「メンタル、やられました」と率直に認めたのだ 。この経験は、彼女が今後さらに成長するための、何物にも代えがたい教訓となっただろう。

スーパー高校生!後藤あい

もう一人の注目株が、16歳の高校生、後藤あいだ。前週の「SkyレディスABC杯」でアマチュア優勝を飾るという快挙を成し遂げ、史上初のアマチュア2週連続優勝への期待を背負って今大会に臨んだ 。

キャリーで260ヤードを飛ばす驚異的な飛距離の持ち主で、史上初のアマチュア「ドラコン女王」にも輝いた逸材だ 。

今大会では優勝争いには絡めなかったものの、右手首の痛みを抱えながらも通算3アンダーの17位タイでフィニッシュ 。試合後には「最終日は思い切ってやるだけです」と、逆境の中でも闘志を失わない強さを見せた 。

岩永と後藤の存在は、もはや単なる話題作りではない。彼女たちは、プロツアーの勢力図を塗り替えかねないほどの力を持っている。アマチュア選手が優勝を争うことが常態化しつつある現状は、プロ選手たちに大きなプレッシャーを与える。

10代の選手に負けられないという重圧は、コース上の心理戦をより複雑で興味深いものにしている。彼女たちの台頭は、日本の女子ゴルフ界全体のレベルを底上げする、強力な起爆剤となっているのだ。

トーナメントの激闘はいかにして繰り広げられたか

上堂薗伽純<Photo:JLPGA>

3日間の戦いは、天候の変化とともに、その表情を刻一刻と変えていった。

Day 1(10月15日):ルーキーの疾走

曇り空から次第に太陽が顔をのぞかせた初日 。フィールドに衝撃を与えたのは、ルーキーの上堂薗伽純だった。圧巻の8アンダーをマークし、単独首位発進を決める 。そして、14歳の岩永梨花が4位タイにつけ、アマチュア旋風の到来を予感させた 。

Day 2(10月16日):首位に4人が並ぶ大混戦

曇り時々雨という不安定な天候の中、リーダーボードは一気に混戦模様となった 。ルーキーの神谷桃歌を含む4人が首位に並び、勝負の行方は最終日に持ち越される 。

岩永も首位と2打差の6位につけ、逆転優勝の可能性を十分に残していた 。予選カットラインは通算1オーバーに設定され、プロ52名、アマチュア4名の計56名が決勝ラウンドへと駒を進めた 。

Day 3(10月17日):ベテランの逆襲

澄み渡る秋晴れとなった最終日 。まさに「大混戦」の名にふさわしい、息詰まる優勝争いが繰り広げられた。大須賀望がイーグルを奪って猛チャージをかければ、前日首位の神谷らも粘りのゴルフを見せる。

その中で、ベテランの仲宗根澄香は冷静に自分のプレーに徹し、着実にスコアを伸ばした。そして、勝負を決めたのは、最終18番での劇的なバーディーだった。

ラウンド リーダー(スコア) 仲宗根澄香 大須賀望 神谷桃歌 岩永梨花
第1日 上堂薗伽純 (-8) 5位T (-5) 8位T (-3) 4位T (-4) 4位T (-4)
第2日 4名がタイ (-8) 1位T (-8) 6位T (-6) 1位T (-8) 6位T (-6)
最終日 仲宗根澄香 (-12) 優勝 (-12) 2位 (-11) 3位 (-9) 8位T (-6)

 

最終結果と未来への展望

3日間の熱戦を終え、北六甲カントリー倶楽部には、勝者の歓喜と、敗者の悔しさが入り混じっていた。仲宗根澄香の勝利は、決して諦めない勇気の物語として記憶されるだろう

。そして、彼女を最後まで追い詰めた若手プロとアマチュア選手たちの躍動は、日本女子ゴルフの未来が限りなく明るいことを示していた。

2025年 ECCレディスゴルフトーナメント 最終リーダーボード(トップ20)

 

順位 選手名 通算スコア 合計 獲得賞金(円)
優勝 仲宗根 澄香 -12 204 ¥3,600,000
2 大須賀 望 -11 205 ¥1,760,000
3 神谷 桃歌 -9 207 ¥1,400,000
4T 石田 可南子 -8 208 ¥1,100,000
4T 中地 萌 -8 208 ¥1,100,000
6T エイミー・コガ -7 209 ¥750,000
6T 浜崎 未来 -7 209 ¥750,000
8T 東 浩子 -6 210 ¥500,000
8T 上堂薗 伽純 -6 210 ¥500,000
8T @岩永 梨花 -6 210 ¥0
8T 平岡 瑠依 -6 210 ¥500,000
12 前田 羚菜 -5 211 ¥376,000
13T 平塚 新夢 -4 212 ¥326,000
13T 六車 日那乃 -4 212 ¥326,000
13T 岸部 桃子 -4 212 ¥326,000
13T 宮澤 美咲 -4 212 ¥326,000
17T @後藤 あい -3 213 ¥0
17T 橋添 穂 -3 213 ¥222,857
17T 保坂 真由 -3 213 ¥222,857
17T 小俣 柚葉 -3 213 ¥222,857
17T 藤本 麻子 -3 213 ¥222,857
17T 高橋 しずく -3 213 ¥222,857
17T 手束 雅 -3 213 ¥222,857
17T 服部 真夕 -3 213 ¥222,857

注:@はアマチュア選手