秋風が心地よい佐賀県、若木ゴルフ倶楽部 。ここで2025年10月24日から26日にかけて、JLPGAステップ・アップ・ツアー「サロンパスレディスオープン」が開催された。
賞金総額2,000万円、優勝賞金360万円をかけたこの一戦は、シーズン終盤の賞金女王争いを左右するだけでなく、未来の女子ゴルフ界を担う逸材たちの才能が火花を散らす、まさに絶好の舞台となった 。
今年のステップ・アップ・ツアーを席巻しているのは、2024年にプロテストに合格したばかりの「97期生」と呼ばれるルーキーたちだ 。
その中でも特に注目を集める二人の新星、大久保柚季と福田萌維。今大会は、この若きライバルの激突がトーナメントの主軸を成す、運命的な一戦となることを予感させていた。
これは単なる一つの大会の記録ではない。日本の女子ゴルフ界に新たな黄金時代の到来を告げる、壮大な物語の序章なのである。
嵐の前の攻防戦(初日)
福田萌維<Photo:Hiromu Sasaki/Getty Images>大会初日の10月24日、金曜日。コースは晴天に恵まれ、穏やかな北風が吹く絶好のコンディションとなった 。
この好条件を活かし、多くの選手がスコアを伸ばし、リーダーボードは混戦模様を呈した。4アンダーの「68」をマークした4人が首位に並ぶ、団子状態でのスタートとなった 。
その首位グループの一角に、今季すでに2勝を挙げ、賞金ランキング2位につけるルーキー、大久保柚季が名を連ねた 。シーズンを通して安定した強さを見せる彼女が初日からトップに立ったことで、大会は早くも彼女を中心に展開していくかのように思われた。
しかし、そのすぐ背後には、もう一人の主役が静かに牙を研いでいた。同じく97期生の福田萌維だ。首位とわずか1打差の3アンダー5位タイで初日を終え、虎視眈々と逆転の機会をうかがう 。
一方、賞金ランキング1位を走る皆吉愛寿香は1アンダーの12位タイと、やや出遅れる形となった 。静かながらも、トッププレーヤーたちの思惑が交錯する緊迫した幕開けだった。
福田萌維、雨中の独壇場(2日目)
福田萌維<Photo:JLPGA>土曜日の2日目、コースの様相は一変した。空は厚い雲に覆われ、時折冷たい雨が降り注ぐタフなコンディションとなった 。多くの選手がスコアメイクに苦しむ中、一人のルーキーが圧巻のプレーを披露する。19歳の福田萌維だ。
この悪コンディションをものともせず、福田は驚異的な集中力でプレーを展開。バーディーを5つ奪いながら、ボギーは一つもない完璧なゴルフを見せ、この日ベストスコアとなる「67」を叩き出した 。
この圧巻のラウンドにより、前日の5位タイから一気にジャンプアップし、通算8アンダーで単独首位に躍り出た 。雨という厳しい条件下で、ミスなくスコアを5つ伸ばすというのは、卓越した技術力と精神力の証明に他ならない。
それは、彼女がただの有望株ではなく、トップレベルで戦うための資質をすでに備えていることを示す、強烈なステートメントであった。
最終日の激闘:追撃と粘りのデッドヒート
エイミー・コガ<Photo:JLPGA>運命の最終日。単独首位の福田を、2打差で追う大久保。試合は、97期生同期対決の様相を呈した。プレッシャーのかかる最終日で、追う立場の大久保が見せたのは、まさに王者のゴルフだった。
彼女は臆することなく攻め続け、この日5アンダーの「67」という素晴らしいスコアをマーク 。猛烈なチャージで福田にプレッシャーをかけ続けた。
一方、追われる立場の福田も決して崩れなかった。大久保の猛追を受けながらも、粘り強いプレーでスコアを3つ伸ばし、「69」でホールアウト 。これは決して悪いスコアではなかったが、大久保の勢いがそれを上回った。
この日のコースがいかにハイレベルな戦いであったかは、他の選手のスコアが物語っている。木下彩が叩き出した8アンダー「64」という驚異的なスコアは、その象徴だ 。そんな大記録が生まれる中でトップを走り続けた二人のプレーは、賞賛に値するものだった。
そして、全組がホールアウトした時、リーダーボードの頂点には二人の名前が並んでいた。通算11アンダー。勝負の行方は、サドンデスのプレーオフへと持ち越された 。
栄光とプライドをかけた一騎打ち試練のプレーオフ
勝者を決めるプレーオフは、技術と精神力のすべてが試される究極の舞台だ。97期生の二人のライバルによる直接対決は、まさに今大会のクライマックスにふさわしいものとなった。
この土壇場で輝きを放ったのは大久保柚季だった。彼女には、乗り越えるべき過去があった。プロテストに3度失敗し、その原因を「自滅だった」と語るほどの精神的な弱さを抱えていた 。
しかし、4度目の挑戦で合格を掴み取った彼女は、精神的に大きく成長していた 。極限のプレッシャーがかかるプレーオフという場面で、かつての自分を乗り越えた強さを見せつけたのだ。
この勝利は、単なる技術の勝利ではない。過去の挫折を乗り越え、精神的な強さを手に入れたことの証明であり、彼女の成長物語の集大成とも言える一勝だった。
この劇的な勝利で、大久保は今季3勝目を達成。ステップ・アップ・ツアーの賞金ランキングでも再びトップに返り咲いた 。
最終成績(トップ10)
| 順位 | 選手名 | R1 | R2 | R3 | 合計 | SCORE |
| 1 | 大久保 柚季 | 68 | 70 | 67 | 205 | -11 |
| 2 | 福田 萌維 | 69 | 67 | 69 | 205 | -11 |
| 3 | エイミー・コガ | 70 | 67 | 69 | 206 | -10 |
| 4 | 六車 日那乃 | 72 | 69 | 67 | 208 | -8 |
| 4 | 神谷 桃歌 | 72 | 65 | 71 | 208 | -8 |
| 6 | 木下 彩 | 71 | 74 | 64 | 209 | -7 |
| 7 | 皆吉 愛寿香 | 71 | 69 | 70 | 210 | -6 |
| 7 | 清本 美波 | 72 | 67 | 71 | 210 | -6 |
| 7 | 平岡 瑠依 | 68 | 70 | 72 | 210 | -6 |
| 7 | 大須賀 望 | 70 | 67 | 73 | 210 | -6 |
ルーキー対決 データ比較
| 項目 | 大久保 柚季 | 福田 萌維 |
| 選手名 | おおくぼ ゆずき | ふくだ めい |
| 年齢 | 22歳 | 19歳 |
| 身長 | 160cm | 167cm |
| プロ転向 | 2024年 (97期生) | 2024年 (97期生) |
| 出身校 | 好文学園女子高等学校 | 日章学園高等学校 |
| 2025年優勝 | 3回 (今大会含む) | 0回 |
| 得意クラブ | ショートアイアン | ドライバー |
息詰まるようなリードチェンジ、天候の変化、最終日の猛チャージ、そしてプレーオフでの決着。2025年のサロンパスレディスオープンは、ゴルフの醍醐味が凝縮されたドラマチックな3日間だった。
そして何よりも、この大会は「97期生」という世代の非凡な才能を改めて証明する場となった。
大久保柚季と福田萌維が繰り広げたハイレベルな優勝争いは、彼女たちがステップ・アップ・ツアーという舞台を卒業し、レギュラーツアーの主役となる日が近いことを強く印象付けた。
佐賀の地で繰り広げられたこの激闘は、これから何年にもわたってゴルフファンを魅了するであろう、偉大なライバル物語の、輝かしい第一章として記憶されるに違いない。彼女たちの次なる戦いが、今から待ち遠しい。
