JLPGAプロテスト

2025年JLPGA最終プロテスト、涙と歓喜の最終日詳報

最終日の焦点は、最終組で直接対決する二人の若き才能に集約されていた。

3日目を終えた時点で単独首位に立っていたのは、通算11アンダーのジ・ユアイ(中国。安定したプレーでトーナメントをリードし、その実力は疑いようもなかった。

頂点のデッドヒート伊藤愛華 vs ジ・ユアイ、-15の死闘

ジユアイ<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>

そのジ・ユアイを1打差の通算10アンダー、単独2位で猛追していたのが、埼玉栄高校3年に在籍する18歳、伊藤愛華だった。初挑戦のプレッシャーを感じさせない堂々たるプレー、特に3日目に見せたフィールドベスト「67」(5バーディ、ボギーなし)のチャージは、彼女が単なる「挑戦者」ではなく、頂点を奪い取る「勝者」の資質を持つことを示していた。

最終ラウンド、二人の戦いはゴルフ史に残るデッドヒートとなった。スタート時点で1打のビハインドを背負う伊藤だったが、その瞳に守りの色合いはなかった。「とりあえず、合格すれば…。トップは意識をしていなかった」という当初の心境は、ラウンドが進むにつれて燃え盛る闘志へと変わっていった。「でも、きょうはとても調子がいい。だから途中から、1番を狙った」。

その言葉通り、伊藤はアグレッシブなゴルフを展開する。6つのバーディを奪い、ボギーはわずか1つ。最終日のスコアを「67」とした。

対するジ・ユアイも、決して崩れなかった。首位のプレッシャーの中で6バーディを奪う意地を見せたが、2つのボギーが響き、最終日のスコアは「68」。

ホールアウトした時点で、二人のスコアは奇しくも通算15アンダーで並んだ。プレーオフかと思われた瞬間、勝負はJLPGAの規定によって決着した。「最終日のスコアが上位の者を1位とする」。

最終日「67」の伊藤が、同「68」のジ・ユアイを上回った。

伊藤は、3日目までの1打のビハインドを、最終日のプレー(67対68)で逆転し、タイスコアに持ち込んだだけでなく、その「最終日の1打差」によってトップ合格のタイトルをもぎ取った。特に最終18番での値千金のバーディが、この劇的な結末を導いた。

「1番になることができて、本当にうれしい」。伊藤は、このトップ合格により、来季の出場権をかけたファイナルQTへの出場資格という、計り知れないアドバンテージも手にした。

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杉山もも、96位からの大逆転劇

もし、伊藤とジ・ユアイの戦いが「頂点のドラマ」であるならば、「奇跡のドラマ」を演じたのは、オーストラリア在住の杉山ももだった。

彼女のプロテストは、2日目を終えた時点で終わったかに見えた。

第2ラウンド(2R)終了時、杉山のスコアは通算10オーバー。順位は96位タイ。予選カットライン(8オーバー77位タイまでの85人)すら遥か下であり、誰もが彼女の挑戦はここまでだと思っただろう。

だが、杉山は諦めていなかった。失うものが何もないという精神状態が、彼女のゴルフを別次元へと昇華させた。

第3ラウンド(3R)、杉山は「65」という驚異的なスコアを叩き出す。通算3オーバーの46位タイまでジャンプアップし、最終日への挑戦権を掴み取った。

そして迎えた運命の最終日。合格ライン(イーブンパー)までは、まだ3打足りない。杉山は「(トータル)2アンダーなら通る」「(最終日に)6アンダーは出さないといけないと考えていた」と、守りではなく「攻め」の目標を胸に、「裏街道」の10番ホールからスタートした。

その攻めの姿勢が、18番パー5で結実する。ここで値千金のイーグルを奪取。このビッグプレーで勢いを加速させた杉山は、後半もスコアを伸ばし、最終日を「68」でホールアウトした。

2R終了時の通算10オーバー、96位タイから、3R「65」、最終日「68」。2日間で通算11アンダーという凄まじいチャージ。最終成績は通算1アンダー、15位タイ。

絶望的な位置から這い上がった、奇跡の一発合格だった。

ホールアウト後、杉山は「頭が真っ白でまだ把握できてないです…。ビックリ」と、自らが起こした奇跡に呆然としていた。彼女の大逆転劇は、プロテストという極限の舞台で、人間の可能性が無限であることを証明した。

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天国と地獄を分けた「境界線」イーブンパー(288)とプラス1(289)

すべての選手が、伊藤や杉山のような劇的な勝利を飾れるわけではない。プロテストの最も残酷な現実は、その「境界線」にこそ存在する。

2025年の合格ラインは、18位タイ、通算イーブンパー(4日間合計288ストローク)となった。そして、そのわずか1打後ろ、通算1オーバー(289ストローク)の23位タイが、不合格のラインとなった。

この「たった1打」の差が、天国と地獄を分けた。

天国(18位タイ / イーブンパー)の安堵

通算イーブンパーの18位タイで合格切符を手にしたのは、木村円、鳴川愛里、森村美優、横山珠々奈、肥後莉音の5名だった。

しかし、同じ「合格」でも、その最終日の内容は全く異なる。木村円は最終日を「69」、鳴川愛里は「70」とスコアを伸ばし、自らの手でライン上のポジションを掴み取った。

対照的に、森村美優(最終日73)、横山珠々奈(同74)、肥後莉音(同74)は、最終日にスコアを落としながらも、3日目までの貯金でギリギリ「耐え抜いた」。彼女たちにとっての最終ホールは、歓喜よりも、全身の血が逆流するようなプレッシャーからの「安堵」だったに違いない。

地獄(23位タイ / 1オーバー)の慟哭

その1打先に、7名の選手が涙を飲んだ。立浦琴奈、リン・シンエン、橋添香、ホウ・ユーサン、木村葉月、大村みなみ、諸橋愛奈。彼女たちは全員、通算1オーバー、23位タイ。あと1打、4日間のうちどこかで1打でも縮めていれば、彼女たちの人生は変わっていた。

この明暗を分けたものは何か。それは、最終日のプレッシャーへの対処である。

1オーバーで不合格となった7名のうち、ホウ・ユーサン、木村葉月、大村みなみ、諸橋愛奈の4名は、最終日に「76」または「77」というスコアを叩いている。これは技術的なミスというよりも、「合格」を意識した瞬間に襲いかかるプレッシャーによる、精神的な崩壊が引き起こした結果である。

以下の表は、その「運命の境界線」で選手たちに何が起こったかを克明に示している。

表1:運命の境界線 – 最終日の明暗

最終順位 選手名 通算スコア (To Par) 最終日スコア R1 R2 R3 R4
T18(合格) 木村 円 0 69 71 74 74 69
T18(合格) 鳴川 愛里 0 70 74 74 70 70
T18(合格) 森村 美優 0 73 71 71 73 73
T18(合格) 横山 珠々奈 0 74 72 69 73 74
T18(合格) 肥後 莉音 0 74 71 71 72 74
T23(不合格) 立浦 琴奈 +1 72 72 72 73 72
T23(不合格) リン・シンエン +1 74 71 71 73 74
T23(不合格) 橋添 香 +1 74 72 72 71 74
T23(不合格) ホウ・ユーサン +1 76 70 72 71 76
T23(不合格) 木村 葉月 +1 76 71 72 70 76
T23(不合格) 大村 みなみ +1 76 75 69 69 76
T23(不合格) 諸橋 愛奈 +1 77 71 71 70 77

合格した選手が最終日を74以下で耐えたのに対し、不合格となった選手の多くが76以上を叩いている。この「たった2打」の差に、1年間の努力が水泡に帰すか、プロとしてのキャリアが始まるか、その全てが凝縮されている。

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夢の舞台に届かなかった者たち:寺西飛香留の7度目の挑戦

当落線上の攻防とは別の場所で、もう一つの悲劇が起きていた。女子初の男子ツアープレーヤーとして注目を集め、今回が実に7回目のプロテスト挑戦となる寺西飛香留のドラマである。

3日目を終えた寺西は、希望の中にいた。3日目に「70」をマークし、通算2アンダーの15位タイに浮上。「圏内」で最終日を迎えたのだ。7年分の思いを胸に、合格は目前にあるかのように思われた。

だが、最終プロテストの最終日には「魔物」が棲む。

奇跡の逆転劇を演じた杉山ももが、96位スタートで「攻める」しかなかったのとは対照的に、寺西は「合格圏内(15位)」というポジションにいた。7回目の挑戦という重圧も加わり、「守りたい」「失敗したくない」という心理が、彼女のスイングを硬直させたのかもしれない。

最終日、寺西のスコアは「78」と大きく崩れた。

結果は通算4オーバー、40位タイ。3日目の「圏内」から、悪夢の転落だった。手が届きそうで届かなかった23位タイの選手たちとはまた違う、「掴みかけた夢」が指の間からこぼれ落ちていく絶望が、そこにはあった。

他にも、有力アマとして注目された伊藤美輝(59位タイ)、井上姫花(68位タイ)、神谷そらの妹・神谷ひな(46位タイ)など、多くの選手がJFE瀬戸内海の芝に涙を落とした。

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98期生、新たなる挑戦の始まり

藤本愛菜<Photo:Atsushi Tomura/Getty Images>

4日間にわたる死闘が終わり、新たに22名のJLPGA98期生が誕生した。彼女たちは、合格率わずか2.9%という過酷なサバイバルを、自らの技術と精神力で乗り越えた、正真正銘の「プロゴルファー」である。

表2:2025年 JLPGA最終プロテスト 合格者22名(JLPGA98期生)

順位 選手名 国籍 通算スコア (To Par) R1 R2 R3 R4
T1 伊藤 愛華 JPN -15 66 73 67 67
T1 ジ・ユアイ CHI -15 66 71 68 68
3 藤本 愛菜 JPN -9 68 71 70 70
4 倉林 紅 JPN -7 72 70 68 71
5 田村 萌来美 JPN -6 72 69 72 69
6 高田 菜桜 JPN -5 75 71 71 66
T7 千田 萌花 JPN -4 71 71 71 71
T7 鳥居 さくら JPN -4 76 66 68 74
T9 吉﨑 マーナ JPN -3 74 72 71 68
T9 前多 愛 JPN -3 71 72 71 71
T9 横山 翔亜 JPN -3 68 72 71 74
T12 池羽 陽向 JPN -2 71 76 70 69
T12 中澤 瑠来 JPN -2 70 74 71 71
T12 ワン・リーニン TWN -2 70 71 69 76
T15 杉山 もも JPN -1 78 76 65 68
T15 佐田山 鈴樺 JPN -1 72 72 70 73
T15 松原 柊亜 JPN -1 67 73 73 74
T18 木村 円 JPN 0 71 74 74 69
T18 鳴川 愛里 JPN 0 74 74 70 70
T18 森村 美優 JPN 0 71 71 73 73
T18 横山 珠々奈 JPN 0 72 69 73 74
T18 肥後 莉音 AUS 0 71 71 72 74

トップ合格を果たした伊藤愛華は、この合格をゴールではなく、スタートラインと捉えている。自身のPRポイントであるパッティング 1 を武器に、彼女は見据える未来を力強く語った。

「有名になりたい。それが目標です。ジュニア世代にも覚えてもらえるようにもなりたい」。

そして、彼女は最も大きな目標を口にした。

「21年東京オリンピックを見て、いつかは出場したい。これが一番大きな目標です」。

プロテスト合格は、あくまでJLPGAツアーという荒波への挑戦権を得たに過ぎない。伊藤愛華、ジ・ユアイ、そして杉山もものような奇跡を起こした22名の新星たちが、この過酷な4日間の記憶を糧に、日本の女子ゴルフ界にどのような新しい風を吹き込むのか。

JFE瀬戸内海の空の下で流された、歓喜と、それを遥かに上回る悔し涙。そのすべてが、彼女たちの未来を輝かせるエネルギーとなる。98期生の戦いは、今、始まったばかりである。

合格者一覧

合格者インタビュー

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