2025年11月7日、岡山県笠岡市に位置するJFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部で閉幕した日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最終プロテストでひときわ異彩を放つ存在がいる。それが、台湾出身のワン・リーニン(Li-Ning Wang)だ。
1994年11月18日生まれの彼女は、合格の瞬間を30歳で迎えた。近年のJLPGAにおいて、合格者の低年齢化が顕著に進み、今年も伊藤愛華(トップ合格)をはじめとする10代、20代前半の選手たちが話題の中心となる中、彼女の存在は特筆すべきものである。
ワン・リーニンは、日本のゴルフファンにとってはまだ馴染みの薄い名前かもしれない。しかし、彼女は「新人」という言葉から連想される「未熟さ」とは無縁の、既に完成されたプロフェッショナルである。
彼女は「ルーキー」でありながら、JLPGAプロテスト挑戦時点で、既に台湾LPGA(TLPGA)においてランキング4位の実績を誇るトッププレイヤーなのだ。さらに、TLPGAツアーでの優勝経験も持つ。
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JFE瀬戸内海での4日間 – 劇的な最終プロテストの軌跡
rookiegolfgirls.com:imageプロテストという独特の緊張感が支配する4日間、ワン・リーニンが見せた戦い方は、彼女の経験値と精神的な成熟を如実に物語るものだった。
彼女の最終的な成績は、最終順位12位タイ(T12)、通算スコアは2アンダーパー、4日間の合計ストロークは286であった。トップ合格を果たした伊藤愛華とジ・ユアイが通算15アンダーパーという驚異的なスコアで並んだことを考えれば、12位タイの「-2」という数字は一見地味に見えるかもしれない。
しかし、プロテストの本質は「勝つ」ことではなく、「合格ライン(今年は18位タイまで)に残る」ことにある。その観点から彼女のスコアを詳細に分析すると、最終日の壮絶なプレッシャーとの戦いが見えてくる。
【表1】ワン・リーニン:2025年JLPGA最終プロテスト 全ラウンド結果
| ラウンド | スコア | 対パー (Day) |
| 第1ラウンド (R1) | 70 | -2 |
| 第2ラウンド (R2) | 71 | -1 |
| 第3ラウンド (R3) | 69 | -3 |
| 最終ラウンド (R4) | 76 | +4 |
| 合計 | 286 | -2 (通算) |
| 最終順位 | 12位タイ (T12) |
このスコア推移は、二つの明確なフェーズを示している。第1ラウンドから第3ラウンドまでの3日間(70, 71, 69)、彼女は一貫してアンダーパーを記録 5。特に3日目にはこの日ベストの「69」をマークし、着実に順位を上げていたことがうかがえる。この安定感こそ、TLPGAで培ってきた実力の証である。
しかし、すべてが決まる最終ラウンド(R4)、彼女のスコアは「76」(4オーバーパー)と大きく乱れた。JLPGAの公式プロフィールによれば、彼女にとってこれが2度目の最終プロテスト受験であった。「今年こそは」という重圧が、合格ラインを意識する最終日に最大化したことは想像に難くない。
だが、彼女は崩れなかった。最終日の「76」は、失敗ではなく「耐え凌いだ結果」である。R1からR3までの3日間で稼いだ「貯金」(通算-6)があったからこそ、この最終日の乱調を吸収し、通算-2というスコアで12位タイという合格圏内に踏みとどまることができた。
これは、3日間安定したプレーを続けられる実力と、最後の土壇場で踏みとどまれる精神的なタフネス、その両方を兼ね備えていることの証明である。
合格直後、彼女はJLPGAに対して、喜びとともに次のようにコメントしている。「プロテスト合格できてとてもうれしいです。今後の目標は優勝目指してがんばります」。
多くの新合格者が「シード権獲得」や「予選通過」を控えめに語る中、彼女が即座に「優勝」を目標として公言したことは注目に値する。これは、一般的な新人の謙虚さとは異なる、自らの実力に対する確固たる自信の表れである。そしてその自信は、彼女が台湾で築き上げてきたキャリアに裏打ちされている。
プロフィール – 11歳から始まったアスリートの道
rookiegolfgirls.com:imageJLPGAの「ルーキー」となるワン・リーニンは、どのようなゴルファーなのか。彼女のプロフィールは、彼女がJLPGAツアーにおいて稀有な存在であることを示している。
- 氏名: ワン リーニン (Li-Ning Wang)
- 生年月日: 1994年11月18日
- 国籍・出身地: 台湾
- 身体: 身長 170cm、体重 83kg
- 血液型: O型
- ゴルフ歴: 11歳から
彼女のプロフィールでまず目を引くのは、その恵まれたフィジカルだ。身長 170cm、体重 83kg という体躯は、JLPGAツアーにおいても屈指のパワーヒッターであることを予感させる。
そして、そのポテンシャルを裏付ける二つの重要な要素がある。
第一に、彼女の学歴である。彼女の出身校は「國立體育大學」(National Taiwan Sport University)。これは、台湾におけるスポーツ科学とアスリート育成の最高学府であり、多くのトップアスリートを輩出している。
彼女がこの大学の出身であるという事実は、11歳から始めたゴルフキャリアにおいて、単に技術を磨いてきただけでなく、体系的なスポーツ科学のトレーニング、フィジカルコンディショニング、メンタルマネジメントといったエリート教育を受けてきたことを示唆している。
彼女の安定したキャリアと強靭なフィジカルは、このアカデミックな背景に支えられている可能性が極めて高い。
第二に、その学歴とフィジカルが生み出す、圧倒的な飛距離だ。JLPGAへの申告によれば、彼女のドライバー(1W)の平均飛距離は 270-280ヤード に達する。2025年シーズンのJLPGAツアー(レギュラーツアー)においても、コンスタントにこの数値を記録できる選手はトップクラスに限られる。
このパワーは、JLPGAのコースセッティングにおいて絶大な武器となる。特に4日間競技のパー5の攻略や、雨天・ラフなどのタフなコンディションにおいて、他の選手に対する明確なアドバンテージとなるだろう。
ワン・リーニンがプロテスト合格直後に「優勝を目指す」と力強く宣言した、その最大の根拠は、このJLPGAでもトップクラスと目される飛距離にあることは間違いない。
台湾の「賞金女王候補」
rookiegolfgirls.com:imageワン・リーニンが「単なる新人ではない」最大の理由は、彼女がプロテスト合格以前に台湾(TLPGA)で築き上げてきた輝かしい戦績にある。日本のゴルフファンから見れば、彼女は2026年シーズンの「ルーキー」だが、台湾のゴルフ界において、彼女は既にトッププロフェッショナルとしての地位を確立している。
プロテスト挑戦中、彼女はTLPGAランキング4位のトッププレイヤーとして紹介されている。ロレックス・ランキング(女子世界ゴルフランキング)のデータは、彼女が台湾ツアーでいかに安定した強さを見せてきたかを詳細に示している。
彼女はTLPGAで「賞金女王候補」の一人であり、優勝争いの常連であった。キャリア通算で優勝1回、2位2回、3位6回、その他トップ10入りを20回記録している(2025年11月時点)。
【表2】ワン・リーニン:台湾LPGA(TLPGA) / 欧州女子ツアー(LET) 主な戦績(2020-2025年)
| 年 | 大会名 | ツアー | 最終順位 |
| 2023 | Sampo Ladies Open.Xiu Ju CUP | TLPGA | 優勝 (1) |
| 2024 | Kenda Tire TLPGA Open | TLPGA | 2位タイ (2T) |
| 2024 | WPG Ladies Open | TLPGA | 2位タイ (2T) |
| 2025 | ICTSI Worldwide Link Philippines Ladies Master | TLPGA | 3位 (3) |
| 2025 | TRUSTGOLF Asian Mixed #2 | TLPGA | 3位 (3) |
| 2023 | GRIN Cup Charity Open | TLPGA | 3位 (3) |
| 2020 | Wistron Ladies Open | TLPGA | 3位タイ (3T) |
| 2024 | Taiwan Mobile Ladies Open | TLPGA | 4位 (4) |
| 2022 | Wistron Ladies Open | TLPGA | 4位 (4) |
| 2021 | Friends of TLPGA Open | TLPGA | 4位 (4) |
| 2024 | Wistron Ladies Open – Taiwan | LET | 12位タイ (12T) |
この戦績リストが示すように、彼女の活躍は一時的なものではなく、2020年から2025年にかけて継続的にトップ争いを演じてきたことがわかる。2023年には「Sampo Ladies Open」で悲願のプロ初優勝を飾っている。
国際的な舞台でも結果を残している。2024年に欧州女子ツアー(LET)との共催で行われた「Wistron Ladies Open – Taiwan」では、世界の強豪を相手に12位タイ入賞を果たした。
TLPGAランキング4位という地位は、彼女が自国ツアーで「安住」し、安定したキャリアを送ることも可能であったことを意味する。
にもかかわらず、彼女は30歳というキャリアの充実期に、2度目の挑戦をしてまで、より競争が激しく、賞金レベルも格段に高い(JLPGAレギュラーツアーの賞金総額は、台湾ツアーやJLPGAステップアップツアーとは桁が異なる)JLPGAへの道を敢えて選んだ。
これは、彼女のキャリアが停滞していたからではなく、むしろTLPGAでトッププレイヤーとしての地位を確立し、より高いレベルへの「ステップアップ」、あるいは自国ツアーからの「卒業」としてJLPGAを選んだことを示している。この野心と実績の組み合わせこそが、彼女を「単なる新人」と見なしてはならない最大の理由である。
2026年への備え – 未知のサポート体制と機材
rookiegolfgirls.com:imageワン・リーニンが2026年シーズンにJLPGAで戦う上で、ファンやメディアが最も注目する情報の一つが、クラブセッティング、スポンサー契約、契約ウェア、そしてコーチングスタッフといったサポート体制だ。
しかし、2025年11月7日のプロテスト合格時点において、これらの情報に関する公式な発表は一切確認されていない。彼女がプロテスト中にどのメーカーのクラブを使用していたか、どのブランドのウェアを着用していたか、どの企業のロゴをつけていたかといった具体的な情報も、報じられていない。
この「情報の不在」を分析するにあたり、まず検索上の「ノイズ」を排除する必要がある。
調査の過程では、ワン・リーニン選手と酷似した名前の情報が散見される。例えば、2025年に米国LPGAツアーで初優勝した中国出身の「Miranda Wang(ミランダ・ワン)」 や、米国の下部ツアーで活動する「Linda Wang(リンダ・ワン)」、あるいは中国の大手スポーツアパレル企業である「Li-Ning(リーニン)」などである。
これらはすべて、今回JLPGAプロテストに合格した台湾の「Li-Ning Wang(ワン・リーニン)」とは別人、あるいは別件であり、直接の関係性を示すものはない。
では、なぜ彼女の機材やスポンサーに関する情報がないのか。その理由は、彼女がJLPGAの正会員資格を得たのが2025年11月7日であり、2026年のJLPGAツアー開幕(例年3月)までにはまだ数ヶ月の「オフシーズン」があるためである。
現在は、まさに来シーズンの契約(機材、ウェア、スポンサー)を締結・更新するための、ビジネス的な交渉期間の真っ只中にある。TLPGAでトップ4に入る実力者である彼女が、これまで無契約のままプレーしていたとは考えにくい。
しかし、JLPGAという新しい、より大きな市場に参入するにあたり、これまでの契約を見直す、あるいは日本企業との新規契約を追加・締結するのは、プロアスリートとして当然の戦略である。
したがって、現時点で情報がないのは「契約がない」のではなく、「(2026年JLPGAシーズン向けの)契約がまだ公式発表されていない」状態であると分析するのが最も妥当である。
今後の展望として、彼女の契約動向はオフシーズンの注目トピックとなるだろう。
- クラブセッティングとスポンサー: 彼女の最大の武器である「270-280ヤードのドライブ」は、ドライバーやボールのメーカーにとって最高の宣伝材料である。TLPGAでの優勝実績とJLPGAという新しい舞台、そして「パワー」という分かりやすい魅力を併せ持つ彼女は、日本のゴルフ関連企業にとって非常に魅力的な契約候補者となる。
- コーチ: 「國立體育大學」出身であることから、同大学のコーチングスタッフや、台湾のナショナルプログラムに準じた体系的なサポートを受けてきたと推察される。JLPGA参戦にあたっては、日本のコースや芝質に対応するため、日本での活動をサポートする新しいチーム(キャディ、通訳、マネジメント)の構築もオフシーズンの重要な課題となるだろう。
2026年JLPGAツアー、注目すべき「即戦力」
rookiegolfgirls.com:imageワン・リーニンは、JLPGAが発行する「ルーキー」カードを持つ選手の中で、最も「ルーキーらしくない」選手である。
彼女のプロフィールを総括すると、2026年シーズンにJLPGAで成功を収めるために必要な要素が揃っていることがわかる。
- 成熟(Maturity): 30歳という年齢は、ゴルフキャリアにおいて精神的、技術的に最も充実する時期であり、若手選手にはない経験と状況判断力を持つ。
- 実績(Proof): 彼女は既にプロツアー(TLPGA)での優勝経験と、ランキング4位というトップクラスの実績を持つ、証明済みの勝者である。
- パワー(Power): 270-280ヤードというJLPGAトップクラスの飛距離は、現代ゴルフにおいて何よりも強力な武器である。
- 育成(Education): 台湾の最高学府である國立體育大學で、体系的なアスリート教育を受けており、そのキャリアは確かな基盤の上に成り立っている。
最終プロテストの最終日に「76」と苦しみながらも合格ラインに踏みとどまった勝負強さ、そして合格直後に「優勝を目指す」と公言した高い志は、彼女が2026年シーズンにおいて、単なるシード権争いではなく、優勝争いに絡んでくる可能性を強く示唆している。
2026年シーズン、JLPGAのリーダーボードで「ワン・リーニン」の名を見る時、我々は彼女が合格率2.9%の過酷な試練を乗り越え、台湾から大きな野心と共にやってきた「即戦力」であることを思い出すだろう。台湾の実力者の、日本での挑戦が今、始まる。