2025年シーズンは、荒木優奈プロにとってまさに飛躍の年となりました。2005年6月17日生まれのルーキーが、9月の国内女子ツアー「ゴルフ5レディスプロゴルフトーナメント」で初優勝を飾ると、11月にはLPGA共催の「TOTOジャパンクラシック」で最終的にプレーオフで敗れはしたものの、54ホールを終えて首位タイに立つという鮮烈な活躍を見せました。
この目覚ましい躍進を支えているのが、彼女のクラブセッティングです。一見すると複数のメーカーが混在する「混合セッティング(Mixed Bag)」ですが、その背景にある契約形態とクラブ選択の意図を分析すると、極めて緻密に最適化された現代プロのギア戦略が浮かび上がってきます。
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荒木優奈 2025年「勝利のセッティング」概要
rookiegolfgirls.com:image荒木プロのセッティングの最大の特徴は、特定のメーカーに縛られない「契約フリー」の利点を最大限に活かしている点にあります。
まず、彼女の契約関係を整理します。Sky株式会社とは「所属契約」を締結しています。これは主にキャップやウェア(アパレル)のメインスポンサーであり、使用するゴルフクラブの選択には直接的な拘束力を持ちません。
一方で、ブリヂストンとは「ボール・用品契約」を締結しています。この契約が彼女のギア戦略の核心です。ブリヂストンのプレスリリースによれば、使用ギアは「ボール TOUR B X」「ウエッジ BITING SPIN(58°)」「グローブ」「キャップ」と明記されています。
これは、クラブ14本すべてを提供する「フルセット契約」とは根本的に異なります。ブリヂストンは、彼女が同社のフラッグシップである「TOUR B X」ボールを使用し、パフォーマンスに直結するウェッジの一部を使用することを最優先事項としています。
その見返りとして、荒木プロはドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッド、アイアン、パターといった他のクラブを、メーカーの垣根を越えて自由に選択する権利を有しています。
この「ボールを中核とした用品契約」こそが、彼女の混合セッティングを可能にする鍵です。彼女のセッティングは、単なる寄せ集めではなく、ブリヂストンが許可した「自由」を戦略的に行使し、各カテゴリーで最高のパフォーマンスを発揮するクラブを厳選した「最適解」と言えます。
2025年シーズン中に確認された2つの主要なセッティングを比較すると、その戦略的な「調整」の痕跡が明確に見えてきます。
荒木優奈プロ 2025年主要大会別クラブセッティング比較
| クラブ種別 | ゴルフ5レディス優勝時 (2025年9月) | TOTOジャパンクラシック時 (2025年11月) | 契約・技術的特徴のメモ |
| ドライバー | PING G440 LST (9°) | PING G440 LST (9°) | 共通。低スピン(LST)モデルを選択。 |
| シャフト | スピーダーNXゴールド (5S) | SPEEDER NX50 (S) | 共通。藤倉コンポジット製NXシリーズ。 |
| FW | PING G440 MAX (3W) | PING G440 MAX (3W 15°, 5W 19°) | 寛容性の高いMAXモデル。 |
| シャフト | SPEEDER NX VIOLET (6S) | (不明) | |
| ハイブリッド | PING G440 (4H 23°, 5H 26°) | PING G430 (#4 22°, #5 26°) | 【注目点】モデルが異なる。 |
| シャフト | テンセイPRO 1K HY80S | (不明) | |
| アイアン | YONEX EZONE CB511 Forged (5I-PW) | YONEX EZONE CB511 (#5-PW) | 共通。YONEXの鍛造キャビティ。 |
| シャフト | REXIS KAIZA-i (HP 9S) | (不明) | 90g台のカーボンシャフト。 |
| ウェッジ (AW) | BRIDGESTONE BRM2 HF (52°) | BRIDGESTONE TOUR B BRM2 (52°) | 共通。ブリヂストン製。 |
| シャフト | NSプロ 1150GH ツアー (S) | (不明) | |
| ウェッジ (SW) | BRIDGESTONE BITING SPIN (58°) | BRIDGESTONE TOUR B BRM (58°) |
共通。ブリヂストンとの契約ギア。 |
| シャフト | NSプロ 1150GH ツアー (S) | (不明) | |
| パター | オデッセイ Ai-One トライビーム 2ボール | テーラーメイド Spider X ツアー | 【最重要】モデルが完全に異なる。 |
| ボール | BRIDGESTONE TOUR B X (2024) | BRIDGESTONE TOUR B X |
共通。ブリヂストンとの契約ギア。 |
この比較表から明らかなように、シーズン中にもかかわらずハイブリッドとパターという、スコアメイクに直結する重要なクラブが変更されています。これは単なる情報の「矛盾」ではなく、本レポートで分析すべき核心的な「プロのセッティングの流動性」を示す証拠です。
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PING G440とG430の併用に見る緻密な調整
rookiegolfgirls.com:image荒木プロのウッド(ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッド)は、PINGで統一されています。しかし、その中には最新モデルと信頼性の高い旧モデルを使い分ける、プロならではの緻密な計算が見て取れます。
ドライバーとフェアウェイウッド:G440のコンビネーション
ドライバーは、両方の資料で共通して「PING G440 LST」が確認されています。LST (Low Spin Technology) は、その名の通りスピン量を抑え、吹け上がりを防いで飛距離を最大化する、ヘッドスピードの速いツアープロ向けのモデルです。
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シャフトは藤倉コンポジットの「スピーダーNX」シリーズ(ゴールド 5S または NX50 S)が装着されており、手元側の剛性を高めてスイングの再現性を高める近年のトレンドに沿った選択です。
一方、フェアウェイウッドは、ドライバーとは異なる「G440 MAX」モデルを選択しています。MAXモデルはLSTモデルに比べて高い寛容性(ミスへの強さ)と安定性を重視した設計です。
ティーアップできるドライバーとは異なり、地面(ラフやフェアウェイ)から直接打つ機会も多いフェアウェイウッドに「やさしさ」を確保するという、プロのセッティングにおける標準的かつ非常にクレバーなコンビネーションです。
最新鋭G440と信頼のG430
本セッティングにおける最大の注目点の一つが、ハイブリッドのモデル変更です。
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ゴルフ5レディス優勝時: PING G440 ハイブリッドユーティリティ (4番23°, 5番26°)
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TOTOジャパンクラシック時: PING G430 ハイブリッド (#4 22°, #5 26°)
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これはプロが意図的に2つのモデルを「使い分けている」可能性を強く示唆しています。
ハイブリッド(ユーティリティ)は、アイアンとウッドの飛距離の「隙間」を埋めるクラブであり、その日のコースコンディション(ラフの長さ、グリーンの硬さ、風の強さ)によって最も頻繁に調整が加えられるクラブの一つです。
G440は2025年シーズンの最新モデルであり、国内ツアー(ゴルフ5レディス)でテストし、そのまま優勝という最高の結果を出しました。一方で、G430は前作ながら、ツアープロの間で絶大な人気と信頼を獲得した「名器」として知られています。
ここから導き出される推論は、よりタフなセッティングが予想されるLPGA共催のグローバルな大会「TOTOジャパンクラシック」において、荒木プロは最新のG440のポテンシャルよりも、長期間使い慣れて信頼性の高いG430の操作性や、特定の弾道(例えば、G430の方が左へのミスが出にくい、あるいは特定の高さで止まる)を「選んだ」というものです。
プロにとって、必ずしも「最新=最適」とは限りません。特にプレッシャーのかかる場面では、技術的な数値よりも「信頼」が勝ることが頻繁にあります。このハイブリッドの「使い分け」は、彼女のコースマネジメントの緻密さの表れに他なりません。
YONEX EZONE CB511 とカーボンシャフトの融合
rookiegolfgirls.com:image荒木プロのセッティングにおいて、ウッド以上に彼女の個性が色濃く出ているのがアイアンの選択です。彼女は、ツアーでの使用率が比較的稀有なYONEXのアイアンを選択しています。
アイアン:YONEX EZONE CB511 Forged
モデルは「YONEX EZONE CB511 Forged (5番~PW)」で、これは両資料で共通しています。YONEXはバドミントンラケットなどで培った世界最高峰のカーボン成形技術で知られるメーカーです。
CB511モデルは、軟鉄鍛造(Forged)特有のソリッドな打感を持ちながら、YONEX独自のG-BRID(グラファイト・ハイブリッド)構造を内部に組み込むことで、振動吸収性と寛容性を両立させた高性能なキャビティバックアイアンと推察されます。
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シャフト:REXIS KAIZA-i カーボン
しかし、このセクションの核心はヘッドではなく、シャフトにあります。「ゴルフ5レディス」時点でのシャフトは「REXIS KAIZA(レクシス カイザ)-i (HP 9S)」と記録されています。
これは、多くの男子プロやパワー系の女子プロが使用する100gを超える重量級のスチールシャフトではなく、90g台の「カーボンコンポジットシャフト」です。
身長156.5cm 2 の荒木プロにとって、アイアンにカーボンシャフトを選択することは、単なる「好み」や「流行」ではなく、極めて戦略的な理由に基づいています。
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振動吸収性と怪我の予防: プロはシーズンを通じて膨大な数のボールを打ち込みます。カーボンシャフトはスチールに比べて振動吸収性に優れており、ショットの衝撃による手首や肘への負担を大幅に軽減します。これは、シーズンの長期にわたるコンディション維持と怪我のリスク管理において、計り知れないメリットとなります。
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スピードと高さの両立: 90g台の「REXIS KAIZA-i HP 9S」は、スチールシャフトのような「しっかり感(HP = High Profile)」を保ちつつ、カーボン特有の「軽量性」と「しなり戻りの速さ」を併せ持ちます。これにより、スイングの負担を減らしながらもヘッドスピードを維持、あるいは向上させることが可能になります。その結果、スチールシャフトよりも「高い弾道」でグリーンを狙うことができ、硬いグリーンでもボールを止めやすくなります。
このYONEXのヘッドとYONEXのカーボンシャフト(REXIS)という組み合わせは、セクション1で述べた「契約フリー」の立場でなければ実現が難しかったかもしれません。彼女の体格とスイングに完璧に最適化された、「非主流」でありながら「最高性能」を引き出すための、非常にロジカルな選択です。
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BRIDGESTONEウェッジと雨中のスピン
rookiegolfgirls.com:image荒木プロのセッティングの中で、唯一メーカー(ブリヂストン)との契約に明確に紐付けられているのがウェッジの一部とボールです。特にウェッジの性能は、TOTOジャパンクラシックでの彼女のパフォーマンスを技術的に裏付けています。
ウェッジ構成と契約ギア
ウェッジの構成は「52°」と「58°」の2本体制です。
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52° (AW): BRIDGESTONE BRM2 HF ウェッジ
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58° (SW): BRIDGESTONE BITING SPIN ウェッジ
ではそれぞれ「TOUR B BRM2」「TOUR B BRM」と記載されていますが、BITING SPINはBRM(Bridgestone Golf Milled)シリーズの最新技術を搭載したモデルであり、これらは表記揺れの範囲内、あるいは同シリーズのバリエーション(HF = ハーフキャビティ)と解釈できます。
重要なのは、ブリヂストンとの「ボール・用品契約」において、「ウエッジ BITING SPIN(58°)」が彼女の使用ギアとしてプレスリリースに明記されている点です。
「BITING SPIN」の排水性
ブリヂストンが提供する「BITING SPIN ウエッジ」の製品情報には、このクラブの核心的な技術が詳細に記されています。
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技術: 新開発『BITING SPIN IX MILLING』。フェース面に縦溝(I)と斜め溝(X)を組み合わせた特殊なミーリング。
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性能: この技術の目的は「摩擦力と排水性の向上」であり、「ドライ時だけでなくウェット時の状態でも実戦力が強化されている」と明記されています。さらに「特にウェット時の性能が大幅に進化し、安心のコントロール性能を発揮します」と強調されています。
この技術的特徴と、荒木プロの実際のパフォーマンスを照らし合わせると、驚くべき事実が浮かび上がります。
11月の「TOTOジャパンクラシック」は、「ヘビーレイン(heavy rains)」によりコースコンディションが極度に悪化し、最終ラウンドがキャンセルされ54ホールに短縮される事態となりました。
荒木プロは、その「極度のウェットコンディション」の中で行われた54ホールを終えて、通算15アンダーで首位タイに立ったのです。
これは偶然の一致ではありません。芝やボールが濡れ、通常であればフライヤーが発生したり、スピンが激減してボールが止まらなくなる最悪のコンディション下でも、彼女の58°ウェッジは「BITING SPIN IX MILLING」技術によってフェースとボールの間の水分を排出し、スピン性能を維持しました。
TOTOでの優勝争いは、この「契約ウェッジ」の技術的優位性に大きく支えられていた可能性が極めて高いと結論付けられます。
「勝利のAi-One」から「TOTOのSpider X」へ
rookiegolfgirls.com:image荒木プロのプロフェッショナリズムを最も象徴しているのが、パターの変更です。
データの「矛盾」
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データ1: 9月の「ゴルフ5レディス」優勝時のセッティング。
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モデル: オデッセイ Ai-One トライビーム 2ボール
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技術: AIが設計した最新インサート(Ai-One)と、ネックの剛性を高める三角形のトラス構造(トライビーム)を組み合わせた、2025年シーズンの最新鋭・高慣性モーメント(MOI)マレット。
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データ2 : 11月の「TOTOジャパンクラシック」出場時のセッティング。
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モデル: テーラーメイド Spider X ツアー
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技術: 10年以上前にツアーに登場して以来、世界中のトッププロに愛用され、高MOIマレットのブームを作った「名器」Spiderの系譜。特徴的なヘッド形状と「トゥルーパスアライメント」による構えやすさが特徴。
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「TOTO」での客観的パフォーマンス
このパター変更が何を意味するのか。ここで、「TOTOジャパンクラシック」における彼女のパッティングに関する客観的なデータ(スタッツ)が決定的な証拠となります。
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データ3:
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「(荒木は)3ラウンド(54ホール)で83パットしか必要とせず、これはフィールドで6番目に少ないタイ記録である」
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矛盾は「進化」の証拠
これらのデータ(11)を時系列で統合すると、以下のストーリーが浮かび上がります。
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9月(ゴルフ5レディス): 荒木プロは、最新技術の粋を集めたオデッセイ「Ai-One トライビーム 2ボール」を投入し、見事に国内ツアー初優勝を果たしました。
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「勝者のジレンマ」の否定: アマチュアゴルファーであれば、この「優勝パター」を縁起物として、あるいはその性能を絶対視して使い続けるでしょう。
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11月(TOTOジャパンクラシック): しかし、荒木プロは優勝からわずか2ヶ月後、よりタフなフィールドと高速グリーンが予想されるLPGAの舞台で、パターを「テーラーメイド Spider X」に変更しました。
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変更の意図(推論): Ai-Oneが「最新の安定性」を提供するパターであるのに対し、Spider Xは多くのプロが長年愛用し、その「打感」や「距離感のフィーリング」で信頼を勝ち取ってきたモデルです。彼女は、TOTOのコンディションに対して、Ai-Oneの安定性よりもSpider Xの「フィーリング」や「アライメントの構えやすさ」がマッチすると判断したと考えられます。
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結果の検証: そして、この変更は「大成功」でした。14の「83パット(フィールドT6位)」というスタッツは、彼女がTOTOジャパンクラシックの出場選手の中で、最も優れたパッティングを披露した選手の一人であったことを客観的に証明しています。
ボール契約という「選択」と荒木優奈の戦略
本レポートで分析してきた荒木プロのセッティングは、一見するとPING、YONEX、ブリヂストン、オデッセイ、テーラーメイドが混在する「混合セッティング」です。しかし、その実態は「BRIDGESTONE TOUR B X ボールを中心に、他の13本を最適化したセッティング」と言うべきです。
すべての資料で共通し、彼女のセッティングの「土台」となっているのが、ブリヂストンの「TOUR B X」ボールです。彼女のブリヂストンとの契約は「ボール・用品契約」であり、「ゴルフ5レディス」の初優勝を報じるプレスリリースでも「TOUR B X/XS ゴルフボールが初優勝に貢献」と、ボールが主役として見出しを飾っています 1。
ボールは、ドライバーからパターまで、1ラウンドのすべてのショットで使用される唯一の機材です。現代のプロのギア戦略において、その「土台」となるボールの選択は、クラブ選択以上に重要視される傾向があります。
荒木プロの戦略は、この「土台」から逆算されています。
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ボールの決定: まず、彼女は自身のプレースタイル(スピン量、打感、弾道)に最適なボールとして、アプローチスピンとフィーリングを重視する「TOUR B X」を選択しました。
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クラブの最適化: そして、そのTOUR B Xボールの性能を100%引き出すために、他の13本を(契約に縛られず)自由に選定します。
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TOUR B Xのスピンを最適化し、最大飛距離を得るために、PING G440 LST(低スピン)ドライバーを選びます。
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TOUR B Xで最適な弾道とスピン量を得て、グリーンに「止める」ために、YONEX CB511 + REXIS KAIZA カーボンシャフトを選びます。
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TOUR B Xの「食いつき」を雨天時でも最大化するために、ブリヂストンの BITING SPIN ウェッジを選びます。
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TOUR B Xの打感を最も心地よく、正確に転がすために、「TOTO」では Spider X パターを選びました。
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荒木優奈プロの2025年の躍進は、彼女の才能と努力の賜物であることは言うまでもありません。
しかし同時に、それはブリヂストンとの「ボール・用品契約」という現代的な契約形態がもたらした「クラブ選択の自由」を最大限に活かし、TOUR B Xという確固たる「土台」の上に、PING、YONEX、テーラーメイドといった各カテゴリーの最適解を緻密に組み上げた、「現代のギア戦略の勝利」であると結論付けられます。